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Department of Justice
Office of Public Affairs

FOR IMMEDIATE RELEASE
Wednesday, April 24, 2019

競争法執行に関する日米協力の歴史 ロジャー・アルフォード(Roger Alford)

I. はじめに

本日、皆さまとお話をすることができ光栄です。まず、反トラスト局のマカン・デラヒム(Makan Delrahim)局長に代わり、心からお詫び申し上げます。マカンは本日この場でスピーチを行う予定で、長い間このイベントを楽しみにしておりましたが、残念ながら、手術を受け現在も療養中であるために、海外への長時間のフライトを伴う出張が不可能になってしまいました。幸い、マカンは間もなく完全回復をする見込みであり、近日中に日本に訪問をできる日を心待ちにしております。マカンからは、皆さまと暖かい挨拶を交わし、また、本プログラムを主催した米国商工会に感謝を述べるようと伝言を預か ってまいりました。

このように大切で歴史的な時に東京に来られたことを、誠に光栄に思っています。一週間足らずに、日本は文字通り、一つの時代の終わりと、新しい時代の幕開けを経験することになります。5 月1 日に皇太子徳仁親王がご即位されるのに伴い、日本は「平成」時代から新しい「令和」時代に改元されます。安倍首相のご説明のとおり、「美しい調和(beautiful harmony)」を意図される「令和」の名は、非常に特別な理由で選ばれました。その名は、日本の長い歴史、豊かな文化、自然の美を思い起こさせ、明るい未来に向けた日本の希望を捉えたものです。

この大切な時の精神を用いて、私は、この場を競争法執行に関する日米関係の過去と歴史を振り返る機会にしたいと考えています。また、デジタル市場がもたらす新たな課題を含め、日米間の将来について意向を述べたいと思います。この新しい時代において、歴史が何かの指標になるとすれば、我々執行者は、集約的な知恵と経験をもって成功とは長期的に正しい決断を下すことであることを把握するべきであります。

II. 競争法執行に関する日米協力の歴史

日本の強力なビジネスリーダーの一人であり、ビートルズ愛好家でもある大和証券の会長、鈴木 茂晴氏は、「日本経済は長く曲がりくねった道(long and winding road)を辿っている」と述べています。1同じように、効果的な反トラスト協力において日本と米国は、長く曲がりくねった道を辿ってきたと言えるでしょう。

日本公正取引委員会(JFTC)は、世界最古・最大級の競争当局の一つです。JFTC と米国反トラスト当局との間の関係は、競争法執行において共同作業の長い歴史を反映するものであります。

昨年 70 周年記念を迎えた日本の独占禁止法は、第二次世界大戦の終結から間もない1947 年に施行されました。独占禁止法は、日本経済の発達を促進し民主化を確保するための米国およびその他の連合国の取り組みの一部でした。2「独占禁止法を実施するというアイデアは米国から来たものであったかもしれませんが、法令の実際の内容のほとんどは日本政府が策定したものです。」3 日本経済は、財閥として知られる少数の強力家族に大きく集中されていました。終戦後、財閥 10 家族出身の 56 人が、日本の消費者 7,200 万人の主要市場を支配していました。4日本における競争法の導入は、「財閥にとって良いことは日本のためにも良いことである」という考え方を変えるのに貢献しました。5

独占禁止法の初期草案には、「競争を免されてゐることは産業の進歩の麻酔薬であり、敵対は之に対する刺激剤である」ため競争法が必要と雄弁に説明されてあります。6 後に、JFTC は、同法の目的について「戦後 …市場経済の考え方に基づく経済の再生」を目指すものであって、「経済憲法」として、「競争を活性化することで我が国経済の 豊かさを実現するための基盤として機能するという役割を担ったものである」と記述しました。7 

しかしながら、1952 年に連合軍の占領が終わった後、日本の独占禁止法は重要なところで後退しました。本質的に、カルテルの per se 禁止が同法から削除されました。また、さまざまな事業関係者が輸出企業および中小企業に対するカルテル免除を認める法律を推進し、特定の状況下で独占禁止法の適用を免除するための特別な「バイパス法令」が制定されることもありました。1970 年代を通して、外国為替取引管理法によって、外国企業からの企業結合企画が実質上克服できない妨害に直面することもありました。

この時期の米国と日本の関係は容易なものではありませんでした。日本は、日本の競争環境を改善する手段として反トラスト法の執行を強化するようと米国および他の国々からの圧力に直面しました。しかし、時の経過に伴い、競争政策は日本にとって重要性が増し、多数の重要な展開を目にすることになりました。

第一に、その排他的市場に関する批判を受け、JFTC は、規制緩和を促し競争を推進するより強力な役割を引き受けました。JFTC は、新規参入者が活発に競争できる競争環境を設備することが重要であるという考えに基づき、規制緩和および民営化市場に向けたガイドラインを策定しました。8 

同時期において、規制緩和と市場の自由化に向けた動きは、米国史においても重要なものでした。1970 年代に始まった規制緩和の波は、価格の低下、選択肢の増加、品質の向上など、消費者に多くの利益をもたらしました。当然ながら、本日においても、米国の反トラスト局は、利益を減じることなく競争を阻害する規制を特定する競争擁護の取り組みを続けています。

第二に、米国との貿易摩擦を解消するため、日本は、外国から日本市場へのアクセスを制限していた非関税障壁の対処をすることに同意しました。1989 年以降、日米構造問題協議(SII)の一環として、日本は市場アクセスをさらに向上するための新しいガイドラインを策定しました。9

第三に、JFTC は、独占禁止法の適用範囲と執行能力の強化を実施しました。例えば、 1992 年には、競争法違反行為、特にカルテルに関して、法人に対する刑事罰を加重する目的で独禁法の改正が行われました。2005 年には、JFTC は犯則審査部を設立し、カルテル等の摘発、事案の真相究明を十分に図るために課徴金減免制度の導入を行いました。

最後に、米国反トラスト当局と JFTC との協力は平成時代において発展し、強化されました。10 年前の 1999 年に JFTC は、「両国における独占禁止法執行を向上させる」とともに、「両政府間の関係向上につながる」という考えのもと、米国の競争当局と反トラスト協力協定を締結しました。10この協定は時機を得たものであり、本日、日本は米国の最も緊密な反トラスト執行パートナーの一つとなっています。実際、DOJ と JFTC は、2004 年に作業部会(working group)を構築することによって、反トラストにおける知的財産問題に関して緊密な関係を築きました。DOJ、FTC、JFTC は定期的に二国間の反トラスト協議を開催しています。私たちの明日の会議は 36 回目の公式協議となるもので、米国が外国の反トラスト当局と行っている協議の中でも最も長期にわたり続いているものです。

執行と政策課題に対する JFTC と米国当局間の協力は、今では日常的なものとなっています。協力は、共通の関心分野を特定し、関連する事実を理解し、企業結合審査において一貫した結果を達成することに支援をするものであります。また、協力は、我々にとってだけでなく、審査対象の当事者にとっても効率向上を図ることに支援をするものであります。協力は、審査と是正措置が一貫して予測可能であることを徹底させることに支援して、国際的に事業を行う企業、そして最終的には消費者に利益をもたらします。11カルテル事件において、事件協力は、現場での事実と状況を理解することに支援して、文書検索(document search)の調整と当局によるインタビューの統合をすることができ、並行して行う調査の効率を向上させ負担を軽減します。

相互的な友好関係は発展続けています。近年、反トラスト局は、国際執行官受け入れプログラム(VIEP:Visiting International Enforcer Program)の一環として、JFTC から 3 名の国際執行官訪問者を受け入れ、今年後半には JFTC からさらに 2 名の執行官を受け入れることを楽しみにしています。また、反トラスト局の検察官の 1 人は、2 週間にわたって JFTC の検察官から研修する機会を得ることができました。

また、JFTC は、多国間の競争活動における貴重なパートナーでもあります。JFTC は国際競争ネットワーク(International Competition Network)の創設メンバーであり、協力と相互理解を促進するためにたゆまぬ努力を続けています。我々は、競争当局手続きのための ICN フレームワーク(ICN Framework for Competition Agency Procedures) として最近発表された、手続きに関する多国間の新フレームワークに対する JFTC の支援に感謝をしています。12昨年春に我々が取り組みを開始した以来、JFTC は積極的な参加者かつサポーターとなっています。実際、オプトイン(opt in)メカニズムを使用して MFP を ICN に取り入れる方法の手本になったのは、JFTC の企業結合審査協力のためのフレームワークでした。13 競争当局の手続きのためのフレームワークは、注目するべき歴史的な功績です。14フレームワークは、法制度や手続規則の違いにも関わらず、世界中の競争当局が競争法の執行における基本的な適正手続き(due process)に専心しているという明確なシグナルを送るものです。4 月 5 日にフレームワークが発表された以来、我々は 100 局近くの競争当局と接触しています。その反応は圧倒的に肯定的なものです。5 月 15 日にコロンビアで開催される初回イベントでは、同フレームワークに対する幅広い支持と真の祝福を得られると予想しています。

平成の時代が終わることにあたって、日米の二国間関係にとって良い時代であったことを申し添えたいと思います。JFTC は多くの点において公正な執行の指針となり、また、同地域における他の競争当局の見本となりました。

III. デジタル時代における競争法執行に対する将来の課題

ここでは、皆さんの多くが関心を寄せる分野である、デジタル市場とテクノロジープラットフォームへの競争法の適用という、来たる令和時代の課題についてお話しをしたいと思います。デジタル市場は、米国ならびに世界中の管轄区域で注目の話題となってきました。世界中の競争当局は、既存の政策と執行ツールがデジタル時代の新しい課題に対応するのに十分な柔軟性があるかどうかに関する課題に取り組んでいます。

JFTC もそれらの課題に関心を寄せています。2018 年後期、JFTC、経済産業省(METI)と総務省(MIC)は、日本のデジタルプラットフォーマーと関連事項について調査するための検討会を発足させました。同検討会の調査結果に基づき、JFTC は、デジタルプラットフォームに関する問題に対応する JFTC の審査を向上させるための基本原則を発行しました。その後まもなく、JFTC はデジタルプラットフォーマーの慣行に重点を置いた市場調査を開始しました。この調査の重点の一つは、日本の事業とデジタルプラットフォーマー(その多くは米国企業)の間に公平な競争の場が存在するかどうかということです。15 

すべての市場と同様、デジタル市場においても、米国の反トラスト局は、イノベーションに対する短期的および長期的な影響を考慮に入れた競争法の慎重な適用を提唱しています。

イノベーションのインセンティブを保つことは、イノベーションとテクノロジーのリーダーである日本にとっても重要です。米国の消費者は、さまざまな業界にわたって、日本の発明により多大な利益を受けています。ソニーのウォークマンは、私のような音楽愛好家に外出先で音楽を鑑賞できる方法を与えた画期的なテクノロジーでした。日本の科学者は、1990 年代初頭に青色 LED ライトを発明し、現在のエネルギー効率の高い画面、モニター、電球に対する道を開きました。私の子供たちは、その他何百万人と同様に、プレイステーションや任天堂などの日本企業によるビデオゲームの進歩による娯楽を享受し続けています。

イノベーションが、市場に新しい商品とサービスをもたらし、コストを下げ、効率を高め、経済成長を促進することで消費者に利益をもたらすことは疑いの余地はありません。したがって、国の法律と政策によって、イノベーションするインセンティブを保護することが重要です。

例えば、知的財産を強固に保護することは、イノベーションを促進する重要事項となります。知的財産権は、発明の成功から利益を得られることを保証するため、イノベーターによる研究開発への投資を促するものであります。また知的財産権は、当初の米国憲法で明示的に引用された唯一の「権利」であり、米国人にとって非常に基本的なものです。

米国の反トラスト局は知的財産権の貴重な役割を認識し、この領域における反トラスト法の誤った適用を抑制することを求めました。我々の見解として、反トラスト法の下に特許権のライセンスを供与する独立した義務はありません。同様に、特許のライセンス供与を無条件で拒否したとしても、それ自体は、反トラスト法上の法的責任を生じさせるものではないと考えています。我々は、排他的知的財産権の権利行使を監視するために反トラスト法を用いることは、最終的にはイノベーションやダイナミックな競争に参加するインセンティブを低下させることを懸念しています。

一方、公正でかつタイムリーな反トラスト法の執行は、市場の健全性を保証することにより、イノベーションを促進する鍵でもあります。競争法は、社会に利益をもたらすためにより良い製品とサービスを創出することを促し、可能にするものであるべきです。同時に我々は、実力に基づき激しく競争する代わりに、反競争的な慣行を通じて参入とイノベーションを阻止しようと努める怠惰な独占者を監視しなければなりません。

反トラスト法執行官は、激しい競争と反競争的行為を区別しなくてはなりません。自由市場の激しい競争は、勝者と敗者を生み出します。消費者が欲しがり購入したがる製品やサービスを作ることで企業が成功した場合、その企業は罰せられるのではなく報われるべきです。より優れた製品を作ることによって非効率的な競合他社を市場から追い出すことは、反競争的なことではなく、むしろ競争の結果だと言えます。他のすべての市場と同様、デジタル市場でも成功そのものが制裁につながるわけではありません。

反トラスト法執行官が適正なバランスを取るには、事実を確認し、実際の競争のダイナミクスを理解する必要があります。そのため、新しい執行活動や規制活動について決定を行う前にデジタル市場とオンラインプラットフォームを慎重に調査する日本の取り組みに感謝しています。

デジタルの世界には、汎用的な対策は存在しません。本日、デジタル企業は、さまざまな製品やサービスに関与しています。それらの差異は我々の反トラスト分析に関連があります。あるサービスにおいて市場支配力を持つ企業は、別の市場では小規模であって革新的な新規参入企業であるかもしれません。反対に、一見すると小規模の企業でも、特定の製品や消費者のグループに関して多大な市場支配力を持つ可能性があります。反トラスト調査の核心においては、単に企業の規模ではなく、疑惑となる行為とその競争上の影響であるべきです。

日本はイノベーションに富む世界屈指の国の一つであり、JFTC は我々の最も強力な執行パ ートナーの一つです。令和の新時代には、両当局が長期的な視野を持ち、ケースバイケースでデジタル空間における懸念事項を評価する強みと経験を持つことになる、と私は確信しています。事実と経済側面が対応措置を支持する場合には強硬にならざるを得ませんが、イノベーションを妨げる措置を取ることがないように慎重になる必要があります。

本日、私は、JFTC と米国の競争当局間の協力の歴史について詳しくお話ししました。歴史から学べる教訓があるとすれば、それは、協力することによって、両当局が課題対応をして、共通の問題解決ができるということです。安倍首相が述べられたとおり、令和の名は、「日本が梅の花のように見事に花を咲かせる」ことを願い望む気持ちを象徴するものです。日本の友人、JFTC の仲間、そして日本人と日本で働くアメリカ人の皆さんに対し、新しい令和時代が、「美しい調和」の時代をもたらし、何十年間にもわたり全世界に対するインスピレーションの源となってきた日本の創造性とイノベーションが今後も引き続き「梅の花のように花を咲かせる」ことをお祈り申し上げます。

ありがとうございました。

 

1 Peter Tasker 著, Why Japan’s ‘Beatles Moment’ Still Matters, 50 Years On, Nikkei Asian Review, (June 23, 2016) 参照先 https://asia.nikkei.com/NAR/Articles/Why-Japan-s-Beatles-moment-still-matters-50-years-on.  
2 Harry First 著, Antitrust in Japan:  The Original Intent, 9 PAC. RIM L. & POL’Y J. 1, (2000).  
3 Id. at 69.  
4 Eleanor M. Hadley 著, Antitrust in Japan, 44-45 (1970).  
5 Id., 44.  
6 First, supra, at 36. 
7 2017 JFTC Press Release, Remarks as We Celebrate the 70th Anniversary of the Antimonopoly Act, 参照先 https://www.jftc.go.jp/en/pressreleases/yearly-2017/July/170720.html.
8 2017 JFTC Press Release, Remarks as We Celebrate the 70th Anniversary of the Antimonopoly Act, 参照先 https://www.jftc.go.jp/en/pressreleases/yearly-2017/July/170720.html.  
9 2017 JFTC Press Release, Remarks as We Celebrate the 70th Anniversary of the Antimonopoly Act, 参照先 https://www.jftc.go.jp/en/pressreleases/yearly-2017/July/170720.html. 
10 Douglas Melamed 著, An Important First Step:  A U.S./Japan Bilateral Antitrust Cooperation Agreement (Nov. 12, 1998), 参照先 https://www.justice.gov/atr/speech/important-first-step-usjapan-bilateral-antitrust-cooperation-agreement.  
11 Patty Brink 著, A View from the Trenches, Remarks Before the Inst. for Consumer Antitrust Studies, Int’l Cooperation at the Antitrust Div. (Apr. 19, 2013)も参照, 参照先 
http://www.justice.gov/atr/public/speeches/296073.pdf 
12 参照 Matthew Perlman 著, “Int’l Competition Group Adopts DOJ’s Fairness Framework,” Law360 (April 5, 2019), 参照先 https://www.law360.com/articles/1146921/int-l-competition-group-adopts-doj-s-fairness-framework; Makan Delrahim著, Assistant Attorney General, U.S. Department of Justice Antitrust Division, Fresh Thinking on Procedural Fairness: A Multilateral Framework on Procedures in Antitrust Enforcement (June 1, 2018), 参照先 https://www.justice.gov/opa/speech/file/1067582/download. 
13 ICN Framework for Merger Review Cooperation, (2012) 参照先 
https://www.internationalcompetitionnetwork.org/portfolio/icn-framework-for-merger-review-cooperation/.  
14 Matthew Perlman 著, “Int’l Competition Group Adopts DOJ’s Fairness Framework,” Law360 (April 5, 2019)参照, 参照先 https://www.law360.com/articles/1146921/int-l-competition-group-adopts-doj-s-fairness-framework. 
15 Fundamental Principles for Improvement of Rules Corresponding to the Rise of Digital Platform Businesses (Dec. 18, 2018)  https://www.jftc.go.jp/en/policy_enforcement/survey/index_files/190220.1.pdf  

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Updated June 17, 2022